青猫の意見
佐々宝砂

夜ふと目をさましたら
胸におおきな風穴があいていました
最近苦しい恋をした覚えはないので
これは病気に違いないとおもったのです

翌朝ユリノキ通りの魔女の家にゆきました
ヤブって評判だけどご近所だから
受付の青猫に病状を訴えますと
よくある症状だと青猫は笑いましたが
魔女は笑いませんでした


 こりゃスランプだね
 もともと誰にでもあるものなんだよこの穴はね
 気づかなけりゃなんでもないんだが
 気づいてしまうと苦しいんだよ苦しかろう

 どうしたらいいんですか

 まあ基本的には恋穴の治し方とおなじだが
 ふさいでもふさいでも切りがないからね
 ほんとうは穴に慣れるのがいちばんよいのだよ

 ところで見たところおまえさん昔の恋穴に
 とんでもないものを詰めてるね
 それがスランプの原因だね間違いない
 まずそのとんでもないものをずりだして

 うわわわ やめてくださいよう
 見ないで見ないで
 それだけは出さないでおねがいですよう

 しかしこうしないと治らないからねえ
 いやなんだねこりゃ詩じゃないか
 こんなものを恋穴に詰めてはいけないよ
 なかで腐っちまうからね
 ほじくり出して廃棄処分にしないと

 ああおねがい
 そんなもの見せないでおねがい
 やめておねがいやめてえっ

 ひええええええええっ


詩をひきずりだしてしまったので
スランプは治りました
でも苦しい恋が再発したので
結局入院することになりました

恋の方がスランプよりずっとまし
というのが青猫の意見ですが
恋の渦中にいると
とてもうなずける意見じゃありません

ユリノキ通りの魔女はヤブって評判
私もちょっとそうおもいます





「ユリノキ通りの魔女の家」より
 2001/06/16





自由詩 青猫の意見 Copyright 佐々宝砂 2006-01-27 01:46:25
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
Light Epics