面影橋
落合朱美


その昔
刑場へ向かう道程で咎人はこの橋の上に立ち
己の最期の姿を川面に映したと云う


インチキな占い師に
「貴女の前世は罪人でした」
と 言われて以来占いはやめた

この善良な私のどこが罪だというのだろう
憤って部屋を出る私の背に
彼女は玉のような声を投げかけた

「すべての命は罪を背負って生まれてきたのです」


人を殺したことはない(現世に於いて)
            恨んだことは ある
人を殴ったこともない(あくまでも現世で)
            罵倒したことは ある
盗んだこともない(記憶の限りでは)
            嫉んだことは ある
騙すつもりはなかった(いつだって私は)
            けれど 嘘をついた

それらが罪だというのなら
善良な私ならば償わなければなるまい
けれどその術を知らぬまま
新たな罪を日々重ねて生きている


面影橋から川面を覗く
歪んだ顔はたしかに罪人の顔だ
悔しいからそのままじっと見つめてやる

犬の散歩の初老の男が
怪訝な顔で通り過ぎる
ふと見遣れば
連れのとぼけた顔のビーグルも
主人と同じ怪訝な目つきで
私を見上げて通り過ぎ


それから二度
犬は私を振り返った





自由詩 面影橋 Copyright 落合朱美 2006-01-21 17:10:24縦
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