悲しいこと うれしいこと
七尾きよし

悲しいこと うれしいこといっぱいです
おぼれないように
といっても命綱をはるためのロープも穴もハンマーも見当たらず
えいっ!
と足をその中につっこむしか
ないのです

きらきらした瞳がいつしか
ぎらぎらと光りだし
どろどろの沼に
片足をとられたぼくは
うわあっ
と叫び声をあげ
その声を聞きつけた魔物たちがよってたかって
肉片を奪い合う。

「触れることだけで満たされる」
と呼ばれる少女が
山茶花の花一輪手にして
雪の中スキップしながら
ブランコに座る少年
のほうへとやってくる。
決して目を見てはいけないよ
ぼくはそう少年の耳元でささやく

落下する
森の精は重力が嫌いだ
ふぅっと息をはくと
からだは泡に包まれて
ぼくは森の妖精
さあ、ふわりと旅にでよう


未詩・独白 悲しいこと うれしいこと Copyright 七尾きよし 2006-01-21 02:10:44縦
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