風に吹かれてボク
七尾きよし

宙に浮かぶゼラチンでできた風船の中で
身体を大の字にして踏ん張っているボクがいる
人から見れば自由に空を飛んでいる
でも風だけが知っている行き先
降りてみたい土地が視界に入っても
思い通りに停まったためしがない
ボクにできるのは踏ん張りつづけることだけ
ときどき気の毒そうに見上げる人たちがいる
子どもたちは風船だ風船だ、いや気球だよと奇声をあげ
見ちゃいけませんと子どもの眼をふさぐおばさんたち
空には他にもゼラチンの風船が浮かんでいて
すれ違うことも時にはあって
でも手を離すととたんに墜落しちゃうことをみんな知っていて
誰も手を振ることなくただ見つめあうだけ
また会ったねカラスに遭遇しないことを祈ってるよと
心の中で念じあいながら
遠のいていく風船をイトオシソウニ見送るだけ
風が吹く日も雨が降る日も
ぼくらはゼラチンでできた風船の中
両手両足ふんばりながら飛んでいる
いつまで飛んでいるのかはわからないまま
どこへ向かってるんかもわからずに



自由詩 風に吹かれてボク Copyright 七尾きよし 2006-01-18 02:40:26
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