暗い安ホテルで眠ろうと思った
虹村 凌

世界が途切れる最後の日をラブホテルで過ごそうと思った
窓の光も入らない暗い暗い新宿の安ホテルで
外界全てをシャットアウトして過ごそうと思った

風呂に水を張り
白と黒の写真と真っ赤な薔薇を浮かべて
上から珈琲牛乳を注ぐ
無意味な行動を繰り返し無意味に写真を撮る
世界が途切れてしまったら何の意味も持たないのに
一片の希望を託す訳でも無く写真を撮る

胸に人形を抱いて歩くだけで恥辱されるような世界
離れ離れ遭ゐ魔ヶ時を越えて行こうと思った
愛する事で傷付けるよりも愛さない事で傷付ける
離れず離れず丑三つ時を越えて行こうと思った

世界が途切れる最後の日をラブホテルで過ごそうと思った
窓の光も入らない暗い暗い新宿の安ホテルで
外界全てをシャットアウトして過ごそうと思った

一番上等な服を着て
其れ以外の服をホームレスに全部渡して
笑顔を写真に納めて廻る
世界が途切れて仕舞えば何の意味も無いと言うのに
ただ幾つかの笑顔の為に全てを捨ててみる

変わった女を連れて歩くだけで陵辱されるような世界
時計仕掛けのオレンヂよりも異常で奇妙だと思った
常に誰かが誰かを見張る様な閉塞感で一杯の世界
爆弾仕掛けのオレンヂで全て吹き飛べば良いと思った

世界が途切れる最後の日をラブホテルで過ごそうと思った
窓の光も入らない暗い暗い新宿の安ホテルで
外界全てをシャットアウトして過ごそうと思った

堅い堅いベッドの上で暢気なバラエティー番組を見ながら
煙草を何本か吸って缶珈琲をすすり
手も洗わずテレビも消さずに眠ろうと思った

暗いラブホテルで眠ろうと思った


自由詩 暗い安ホテルで眠ろうと思った Copyright 虹村 凌 2006-01-17 22:11:25縦
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