つぼみの風
まほし

発売まで指折り数えたCDを
ようやく手にして
するするセロファンを
むいているときのときめきは
リンゴを倍速でむいているみたいで

ポンと
再生ボタンを押すと
さらに加速度を増して
もぎたての音楽が回転する

わたしの中には
つぼみの風が
プラスチックのケースに
閉じこめられていて

心をゆり動かされたとき
 コト コト
 コト コト
プラスチックをノックする

(ああ、そうだ)

1秒先のメロディーを
つかまえようとして
心臓が前のめりになる

(わたしもただ、歌いたいんだ)

熱い息がこみ上げる


日曜日になれば
ギターを抱えて
東京中の公園をまわるのが
わたしの仕事で

平日がバイトにつぶれても
お金がなくてお腹がへっても

どうしても空に溶かしたい歌があって

つぼみの風が
純粋なまま
いつかは実って

誰かの手によって
再生ボタンを押されるのを
ゆめみている


自由詩 つぼみの風 Copyright まほし 2006-01-15 06:15:03
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