蓋天宣夜
佐々宝砂

最初に巨大なテーブルが在つた。
テーブルこそは原初の者である。

テーブルの一辺は三千阿僧祇あそうぎ四千阿僧祇あそうぎであつて、
其の対角線は五千阿僧祇あそうぎ
テーブルの央心には直径二百八恒河沙こうがしゃの翡翠のぎょくが鎮座する。
翡翠の表面には選ばれた物らが住まふ。

テーブル上部百八不可思議の高さに蓋天があり、
其処には全ての活力の源泉である太陽が輝く。
テーブル上部に住む物は其の光輝を受けて生きるが、
常時光輝を受ける事耐え難き物どもの住まひは、
テーブルの端や横に浮遊して光輝を避ける。

ほほう。
御前達人間どもの地球は其の浮遊体であると思つたか。
地球が宇宙の中心であると考へた昔人より幾らか謙虚であらうが、
否。否否否。違ふ。笑止。

テーブルの下部、其処は永遠の夜であるが、
わづかに光る蛍のやうなものが無数に飛ぶ。
あの蛍のやうなものの一つを、
御前達は太陽と呼んでをる。
御前達の地球は蛍のまはりに舞ふ塵よ。
闇の中ふはりふはりと舞ふ塵よ。


初出 蘭の会2006年1月月例詩集「テーブル」


自由詩 蓋天宣夜 Copyright 佐々宝砂 2006-01-15 01:56:59
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