感情をことばにすることの圧力がぼくを押し殺してしまってからもうどれくらいの月日が過ぎたろうぼくはまだ...
七尾きよし

美しいものを見るとき
ドキンとからだのどこかで音がして
ぼくはハッとふりかえる
遠い昔のあるときに
捨て去ってしまった故郷がそこにあるかのような気がして
なぜだろう

美しい人を見るとき
彼女の瞳の中をのぞこうと
ぼくは思いっきり背伸びし
愕然としてしまう
失ってしまったはずの
ぼくのことばたちが
からだの中を泳ぎだして
帰りたい
帰りたいって言う

美しいあなたのもとへ
ぼくは引き寄せられ
ことばたちは呼び覚まされ
まだ目覚めのときではないと
もう一人の誰かが言い
ぼくはおびえたように
両手で頭をおおい後ずさりし

ふるえふるえ
からだがふるえ
こころがふるえ
指のすき間から
そっとあなたの姿を盗み見し
声にならないうめき声をあげ
ぼくは失ってしまった何かを取り戻そうと
せつなくて 



自由詩 感情をことばにすることの圧力がぼくを押し殺してしまってからもうどれくらいの月日が過ぎたろうぼくはまだ... Copyright 七尾きよし 2006-01-12 23:44:28
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