たとえようのない
七尾きよし

たとえようのない。。。。

はっと寒気がして  
ふっと後ろを振り向いたらなにもいなくて
 ぼんやりと宙を見つめ
思い出だけがひかりかがやいているかのように
 みじめな顔をして
鼻水をたらしながらいつまでも治らない風邪をひきずり
どこにもぼくが望むものなど
 転がってやしないとウソブク。
露出した肌を侵食していく冷気の中で
 タバコを吸いながら
どこか知らない遠い世界をあこがれ
 肉体など存在しないのだと言いつつ
思うがままに 快楽におぼれたいだけ
 おぼれるままに生きる。。。
  ことなど 実は望んでいやしない。


たとえようのない。。。

閉塞感なんていうものも
 実のところ特に感じず
将来に何の夢も希望も
 無い
 なんて言ってみても
 まったく実感がなく
ただ夢の世界へ沈没して
 イルカのように泳ぎ狂って
 喜びあふれて
時にはネクラなあそびに時間をついやし
 嗚呼、人生って
 とつぶやいてみせて
誰も聞いてないので
 妙にがっかりして
  また 家路に着く。


たとえようのない。。

手をのばせば
 そこには君がいて
口をひらけば
 思ってもいないことがあふれだして
 言葉の渦となって君を襲う
またいつものことかと
 君は澄ました顔をしてちっちゃな子をなだめるかのように
黄ばんだ柿渋のような色をした両の手のひらでぼくの首元をつつんで
いいのよ と言う。
あれよという間に君はぼくのふところにモグリコンデ
 いつもの瞳をぼくに向けて
  また、いいのよ と言う。


たとえようのない。

君の両足がぼくの両足の甲の上にあって二人は抱き合いながら
 せえのっと同時に片足ずつ歩を進める
一歩ずつ
 一歩ごとに君のからだの重みを甲に受け止めながら
 ぼくは君を抱きしめる
ガラパゴスにいる前にしか歩けないカニのように
 ぼくたちは一緒に歩く。一歩
 また一歩
 右へひだりへとゆらゆら あぶなげに
 でも着実にぼくたちは歩みをともにする
二人はお互いのおかしなさまを見て笑う
 ぼくは笑う
 そしてきみが笑う
 大きな口をあけてガハハハと二人は笑う
息子がひょこっと現れて
 パパとママ ペンギンみたいだって笑いころげ
  ぼくはたとえようのない幸せのなかに自分を見つける。


自由詩 たとえようのない Copyright 七尾きよし 2006-01-11 00:34:05
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