このはれた さむいひに
岡部淳太郎

このはれた
けれどもとてもさむいひに
うみにあらわれたはまべで
きみというこどもは
いたずらをくりかえす

うみねこたちがなきながら
きみのいたずらをみている



きみがしたいたずらといえば
たまたまこのはまべにあらわれた
さびしいちゅうねんおとこの
ふとったおなかをさすっては
こういっただけだった

ねえ
このなかにあかちゃんがいるの?



きみはとしはもいかない
いたずらずきなこどもで
じぶんでも
そのことをよくわかっていて
ひとりではまべをあるきながら
みえないははおやにむかって
こういうんだ

ねえ おかあさん
ぼくはとてもわるいこでしょ?



そう
きみはとてもわるいこだから
ばつをうけなくてはいけない
おそろしく
くすぐったいような
ばつをうけなくてはいけない
こんなはれた
けれどもとてもさむいひに
ひとりきりでばつをうけるのは
どんなにかこころぼそいだろうか

でも
いたずらをしては
いけないんだよ



ねえ
このなかにあかちゃんがいるの?

きみはそうきくけど
ちゅうねんおとこは
ほほえみながらこうこたえる

ぼくはおとこだから
あかちゃんはうめないんだよ

そういわれても
きみはなっとくできずに
まだそのふとったおなかを
さわりつづけている



もしもぼくがおんなのひとだったら
きみみたいなかわいいおとこのこをうむことに
はてしないよろこびをかんじるはずなんだけど

ちゅうねんおとこはそういって
きみのちいさなてをそっとにぎる

ざんねんだけど
それはぼくにはゆるされていないんだ
せいぶつがくてきに
あきらかなことなんだよ

ほほえみながらそうつけくわえても
せいぶつがくてきってなあに?
そういってきみは
きょとんとしたかおをするだけで

こんなはれた
けれどもとてもさむいひに
うみのながいうでのそばで
きみはどんどんあたらしくなってゆく



せいあいや
せいべつの
なんたるかをまだしらないきみよ
いまもせかいのどこかで
だれかがうまれ
だれかがしんでいるんだ
きみもそのなかのひとりとして
このそらとうみの
ふたつのあおのあいだにたっている
ぼくにゆるされているのは
それらをただ
みまもることだけなんだよ

こんなはれた
けれどもとてもさむいひに
ぼくには
そんなことしかできないんだよ



やぶれたこいやあいのくのうをまだしらない
ほんのこどもにすぎないきみは
なおもふしぎそうなかおをして
やがてあきらめたようにめをほそめ
ちゅうねんおとこのそばをはなれて
なみうちぎわにむかってはしりだして

きみはこのふゆのあおじろさのなかで
まちがいのない
ひとつのあたたかさでいる



きみはとてもいたずらずきなわるいこだから
きみはばつをうけなければいけない
きみのまわりのおとなたちから
きついほどにあいされるというばつを

きみはきっと
それをばつだとはおもわずに
ひとつのありがたい
おくりものとしてうけとるだろうが



きみが
きみのおかあさんにたいして
いつもかんじているように
とてもわるいこだったとしても
ぼくは
きみみたいなくりくりしたこどもには
むげんのあいじょうをそそぐだろう
たとえこんなはれた
けれどもとてもさむいひに
きみがぼくを
こまらせるだけのそんざいであったとしても

ぼくはきみに
あいじょうをそそぐだろう
ぼくがいつも
あいというものからうらぎられていることへの
しかえしのように



うみのむこうをみながら
きみはぼんやりとしたかおをしている
うちにおいてきてしまった
ははおやのことをかんがえているのだろうか
ははおやがどこかで
まいごになっているかもしれないと
しんぱいしているのだろうか

せかいはとてもざんこくで
こいやあいもまたそうなんだ
このふとったおなかから
きみみたいなこどもが
うまれてくればよかったのに

きみのいたずらは
あすもあさってもつづき
きみはきみのみのまわりから
さまざまなぎもんをひろって
それらをてのひらのなかで
あたためつづけるだろう

そのあいだもぼくはきっと
うえたまなざしで
どこかをさまよいあるいているんだ



ぼくは
ばつをうけたい
きみが
うけるべきばつとは
ちがうものかもしれないけれど
そのかれつさのなかで
ぼくはひたすらだまっていたい

きたないよくぼうからうまれた
むくなこどもであるきみは
としおいたおとなの
とおいゆううつにもきづかずに
はまべをあるいているけれど

ふと
きみはわれをわすれたように
なみのなかのかすかなおとに
みみをすます
きみはせいいっぱいに
てつがくをしている



ぼくのふとったおなかから
なにかがうまれるよりもはやく
きみはなにものかを
うみだすだろう
それはきょうのようにはれた
けれどもとてもさむいひだろう

たとえそのとききみを
このうみやそらよりも
あおすぎるかんじょうが
おそったとしても

きみはあいされてあるということの
そのばつのなかで
みずからにちゅうじつであれ



こんなはれた
けれどもとてもさむいひに
きみのいたずらは
かたちのきまっていないものをつよく
ゆりうごかしている

せかいはあおく
こいやあいもあおい
きみはあおいこどもで
ぼくもおなじような
あおいこどもでしかなくて
そして
じんせいという
このおかしなものまで
このそらやうみとおなじように
みごとにまっさおなんだ

きみはきつくあいされなければならない
ぼくも
ほんとうは
そうされるべきだったんだ



(二〇〇六年一月)


自由詩 このはれた さむいひに Copyright 岡部淳太郎 2006-01-10 21:49:22縦
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