小詩集「なんでだろう」
たもつ
○ところで皆さん!
ところで皆さん!
口を開けてください!
と、日記に書いた
書いたのは私一人
読むのも私一人
そこから先が続かずに
皆さんが口を開けて待っている
○後悔
友人が「お吸い物」をたのみ
私は「お吸わない物」をたのむ
冗談のつもりだったのに
「お吸わない物」はきちんと出てきた
友人が美味しそうに「お吸い物」を吸っているそばで
私は正しい「お吸わない方」を考えるばかり
後悔先に立たず
後の祭り
風が吹けば桶屋が儲かる
私は桶屋ではない
○こら
ガラスびんの中には
小さな国があって
小さな人たちが歩いている
のぞき込むと手を振るので
手を振りかえしたら
びっくりした顔で
逃げていった
ムッ
いったい人のことを何だと思ってる
○夏の終わり
満員の通勤電車
誰かがひぐらしの鳴きまねをした
カナカナカナ
ああ、夏が終わるな、と思った
隣のおじさんが
夏が終わるな、と呟いた
○なんでだろう
一昨日から変なオブジェのようなものが
私につきまとって離れない
それは
なみなみの
あみあみの
ごろごろで
どこか身体の具合が悪いせいかもしれない、と
病院に行っても医者は
ああ、うん、ごにょごにょ、と言うばかりだ
会社では皆、私にオブジェがついている
のが当たり前であるかのように
あみあみを指で伸ばしたり
ごろごろをもてあそんだりする
それにしてもなんでだろう
お茶をすすりながら
隣にいる小野田さんのオブジェを
指でぷにゅぷにゅしている