白梅
佐々宝砂

白百合の季節ではないから
梅の枝を切ってきた
山の梅だから
きっと白い花が咲くだろう

ほんとのことをいえば
白い花はあんまり好きじゃない
私が好きな花は深紅の彼岸花で
それも墓地やなんかにわんさと生えて
ゴギブリ並の生命力を見せつけるようなやつなのだ
なのにいつも白い花を活けるのは
あのバカたれへの嫌味で
あのバカたれが気付いてるかどうか知らんが
そもそもあのバカたれはもう私を見てないんだし
私の自己満足でかまわねーのだ

玄関先に活けた梅の枝は
オアシスという名の地獄にいましめられ
それでも少しずつ蕾をふくらませるだろう
蕾はやがてほころび白い花びらをこぼすだろう

私はあのときと少しもかわりがないのだと
そんなバカげた嘘を言うつもりはない
私は梅の枝よりはるかに流動的なので
五分前の感情を表現することすらできない
でも日々新たに
そのことに気付くと
我ながら心からうんざりするけれど
日々新たに
私は自分の感情を再構築しているらしいのだ

白い花びらは茶色にくすんでゆき
黄色い花芯は稔りを知らぬまま落ちてゆき
かたく閉じた冬芽は
訪れなかった未来を抱きしめて朽ちてゆき

この世にさよならを言えないで



自由詩 白梅 Copyright 佐々宝砂 2006-01-10 04:07:32
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