世界機械
茶釜

僕らには何らかの足と
時間があるのに

階段はいつも
非常口の奥で
しんとしている



「何階ですか?」

機械のゆみこが訪ねると

「トナカイです」と

どこか遠くから
草原の風にのって
野生動物の声がした

機械のゆみこが
早くて優しくて
がんばりやさんなものだから
だれもかれもが
それがプログラムである事や
自分達のちからを
すっかり忘れてしまう

いつか階段達は
腕まくりをした男の
白いワイシャツの袖からのぞく
野性のにおいと
足のない冷蔵庫の重たさと大事さを
教えてくれていたのかもしれない

時々は
ベンチにもなって
ともだちや子犬と
アイスをなめたり
疲れたら
好きなときに好きな段で
立ち止まり休むことの何かを教えてくれたの
かもしれない

長い
屋上への道の途中で
カラのじゅうばこのふたの裏
まだくっついている
世界のおもしろさや
すべての事を諦めることを諦めることを
考えさせてくれた
はずなのに

僕は今このときも
伸びすぎた足を
ただ重たいだけの
高価なトレッキングシューズの中に
静かにつめこんで
ただ早くて優しくて
いつまでも意味ありげな笑みを浮かべ
ただ同じ場所を行ったり来たりの
せまいユミコの中

ベビー用品売り場も
玩具売り場も
紳士服売り場も
一直線に抜けて

ほんの幾つかの
見慣れたスイッチの明かりだけを
ただぼんやりと見つめている

数えられる数字は
もっともっと有ったはずなのに

僕らはいつも
ずるさから
先に覚えてしまう


自由詩 世界機械 Copyright 茶釜 2005-12-11 22:11:57
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