夕焼けが足りない 12
AB(なかほど)

  夕陽に向かって



加賀一の宮駅裏の公園から
手取川にかかる橋を歩き
まん中のちょっと手前で
深く一息


  トン トン トン トン と
  公園の方から三つ過ぎの僕がやってきた
  夕陽に眩しそうな顔をしながら
  誰の後をついてきたのやら

  タ タ タ タ と 
  公園の方から小学校に入った僕が走ってきた
  変身ポーズをとる間に
  皆に追いこされてしまった

  ガー ガー ガー ガー と
  公園の方から自転車の僕がやってきた  
  少年野球のユニフォームで
  はじめて試合に出た日の帰り
   

  みんな夕焼けになって消えていった
  

  もう公園の方からやってくる
  僕はいない と
  談笑しながら
  三十半ばの夫婦が歩いてきた

  あれは父と母
  かと 見ているうちに
  何も言わずに微笑みをたたえる
  六十過ぎの夫婦になって通り過ぎた  

  水の流れと葉ずれの音が
  山から降りてきて橋を通り過ぎた   


タン タン タン タン と
あれは誰 と公園の方を見ると
六つになる息子が走ってきて
僕の手を引っ張った

トン トン トン トン と
遅れて公園の方からやってくる
三つ過ぎの弟は
夕陽に眩しそうな笑い顔


そうか もう家に帰ろうか



    


自由詩 夕焼けが足りない 12 Copyright AB(なかほど) 2004-01-15 23:52:37
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夕焼けが足りない