夕焼けが足りない 12
AB(なかほど)
夕陽に向かって
加賀一の宮駅裏の公園から
手取川にかかる橋を歩き
まん中のちょっと手前で
深く一息
トン トン トン トン と
公園の方から三つ過ぎの僕がやってきた
夕陽に眩しそうな顔をしながら
誰の後をついてきたのやら
タ タ タ タ と
公園の方から小学校に入った僕が走ってきた
変身ポーズをとる間に
皆に追いこされてしまった
ガー ガー ガー ガー と
公園の方から自転車の僕がやってきた
少年野球のユニフォームで
はじめて試合に出た日の帰り
みんな夕焼けになって消えていった
もう公園の方からやってくる
僕はいない と
談笑しながら
三十半ばの夫婦が歩いてきた
あれは父と母
かと 見ているうちに
何も言わずに微笑みをたたえる
六十過ぎの夫婦になって通り過ぎた
水の流れと葉ずれの音が
山から降りてきて橋を通り過ぎた
タン タン タン タン と
あれは誰 と公園の方を見ると
六つになる息子が走ってきて
僕の手を引っ張った
トン トン トン トン と
遅れて公園の方からやってくる
三つ過ぎの弟は
夕陽に眩しそうな笑い顔
そうか もう家に帰ろうか
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夕焼けが足りない