『Lyrical-chips』
川村 透

ダッシュボードに置かれた
紙コップ入りのハ―ブ・ティ―
香ばしい湯気がフロントガラスを照らし
ホログラムの金魚のように泳ぎ出す


 「ミントのカナシミ」


透明な犬が、僕の見えない手のひらをなめる
僕は君にとって、どんな甘露、なんだろうか
あまずっぱいジェルを頬にすり込んで
君は僕を扇型に開こうとしている


 「祈りを薄荷のようにくゆらせて歩け」


君は僕に似た名前のない馬にのしかかる
脳の中まで、うす蒼く、満たされたまま
ラフカットジュエル、ラベンダー・ジェル
僕たちは薔薇色の血を流しながら薄目を明ける


 「メイプルシロップ、な朝、傷口が輝きはじめた」


KISS、に吸い込まれて、僕の顔が見えなくなる
アスリ―トの肩甲骨が鳥のように呼吸している
君の翼のあとが朝焼けに震えて、透けて見える
僕たちは、ココ、に何を捨てに、来たんだろう


 「レモネード・ヘゲモニー、感傷過多生活」


朝日は何だか象形文字みたいによそよそしい
フロントガラスが、涙目のようにつゆぶいて
手に入れぬことこそ甘露、だったはずなのに
喉の奥からせりあがってくるのは、感情の魚


 「朝の腕を、花束のように抱いて眠る」


僕は、ひまわりの首になって、ア―メン
車の中、人工の木陰で、傷口から汗を流している
水玉模様の衣擦れが、ラジオみたいにささやくと
君の二本の指が、ささやかな羅紗切鋏、になった


--Lyrical-chips


ああ、もっと
もっと細く屹立する水色の小さな約束があるといい
扇型に開いた僕を閉じて

扇型に君を開いて、僕を閉じて

僕を閉じて
君を開いて


--Lyrical-chips


 「不幸は、ちゃんと、蜜の味がするから」

 「僕たちはそれでもどこか、うれしいんだと思う」

 「メイプルシロップ、な朝、傷口が輝きはじめた」

 「水玉模様の衣擦れが、ラジオみたいにささやく」

 「朝の腕を、花束のように抱いて眠る」

 「水色の小さな約束があるといい」

 「レモネード・ヘゲモニー、感傷過多生活」

 「喉の奥からせりあがってくるのは、感情の魚」

 「君の二本の指が、ささやかな羅紗切鋏、になった」

 「扇型に君を開いて、僕を閉じて」

 「ミントのカナシミ」


--Lyrical-chips


 「祈りを薄荷のようにくゆらせて歩け」


--Good morning
--Lyrical-chips


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2005/11/20 ver 1.08


自由詩 『Lyrical-chips』 Copyright 川村 透 2005-11-22 00:28:11
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