冬物語
落合朱美


蝋燭の
仄かに灯した明かりだけで
読みたい物語がある


閉ざされた雪山の麓の
貧しい村の物語

痩せた土壌では穀物も育たず
日照りの夏と実らぬ秋を経て
魂の芯まで凍える冬を迎える

隙間風が土間の縁に吹き溜りを作り
僅かな温みの囲炉裏ばたで
母は我が身の体温だけで乳飲み児を温め
子供たちは肩を寄せ合い
父は藁を編んでいる

やがて祖母が語り始める
この山の奥深い森の冬の話を

 山にはナァ
 山嵐という乱暴者の男と
 雪女という冷てぇ手のオナゴがいでナァ
 冬中獲物どご探して走り回るんだと
 吹雪で道さ迷った人間や
 寒さで動げねくなった動物を
 あっという間に掴めで
 2人でニタニタ笑いながら喰ってしまうんだと

子供たちは震えながら
ますます肩を寄せ合っている

 んだから山の動物たちは皆
 冬は穴ん中さ入って春まで眠るのサ
 雪に埋もれた穴の中はあったけくてナァ
 子熊は母熊の懐に抱かれて
 幸せな春の夢を見てるんダァ
 柔らけえ木の芽っこ食べたり
 紋白蝶と戯れる夢ば見てるんだべナァ

子供たちは寒さの中で
瞳を輝かせて聴き入っている

厳しい冬も永遠ではなく
やがてこの村にも春が訪れる

春は唯一の優しい季節で
どんな者にも平等に
暖かな陽射しを分け与えるだろう


蝋燭の仄かな灯火を
いつまでも消したくないと思う
夜がある






自由詩 冬物語 Copyright 落合朱美 2005-11-20 23:25:28縦
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