でぃあまんて
落合朱美


きわめて無機質なショウケースは
その中が厳重な保護下に置かれていることを物語り
光の粒が華やぐ中に一際大きな輝きが鎮座していた

限りなく透明なラウンドブリリアントカットは
冷ややかな気高い微笑を湛えて
誰も迂闊に触れることなどできはしない

この貴婦人を創り上げるために
多くの男たちが額に汗して鉱山を掘り起こし
選び抜かれた職人が細工を施し磨き上げたのだろう

高貴な宝石は愛と欲の交錯の中に生まれ
輝いてなお数多の女たちの欲望や
男たちの虚栄を満たす


手に入る筈もない輝きを瞳に焼き付けて
ため息とともに部屋に帰った私は
ふと思い出して本棚の上段を探した

片手に軽くおさまるほどの銀のボンボニエールは
思えばこれは亡き祖父が皇室の風習を真似て
二十歳の誕生日に贈ってくれたもの

中にはしかしあまりにもみすぼらしく変色した
銀の指輪が無雑作に転がっていて
小さな五八面体は紛れもないイミテーション

指輪はやはり二十歳の誕生日に彼がくれたもの
ぶっきらぼうに差しだされた愛を受けとめるには
私はすこし幼すぎたのかもしれない

あの頃左の薬指でくるくる回るほどだったそれが
今では第二関節で止まってしまうことが可笑しくて
忍び笑いをしながら私は指輪を磨いてみる

あの時彼と永遠を誓うことは出来なかったけれど
この指輪の輝きはたしかに
私にとっては最高のでぃあまんてだった






自由詩 でぃあまんて Copyright 落合朱美 2005-11-16 23:09:25縦
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