出かけなかったんだ
石川和広



朝日新聞が降りそそいでくる夕べに
お茶をのもうとして
ぼくは
お茶がないことに
気づいて
原稿をおいて
タバコすった
今日は
出かけなかったんだ
朝から

そうして弱火でぐつぐつと夕べ
少し暗くなるとあっという間
星が半透明から色づいて
みえてくるじゃないか
たいそう美しいとは思えないけども
いい
そして
出かけなかったんだ
窓から
6階から
あまりうつむいても落ちてしまいそうなんだ
顔を上げて
みかんを食べたんだ

ファシズムひろがるよね
首たくさん切られていくよね
それもうわべかな
だって貧しくなっていって
弱きものが素直でいられなくなる
電信柱を飛びこして
君にあてた手紙は何通目だろう
全部朝のにおいがする
君の手紙は4通目です
新聞読んでたら
大切なことなんだけど
もう世の中があるみたいで
正しすぎてまぶしい

ぼくらは抱きしめあい
守りあわなければならない
正しさから
美しいシナプスの放射の銀河を
少しかさついた白い君の手のひらを
そして 耳かきを
にせものにつままれない
この肉眼を

眼から砂がこぼれおちて
画面を見ていると
涙があふれてきて
そのとき悲しくなくて
うれしくもなくて
眼の疲れだけかもしれなくて
でも それはお知らせで
体を大切にして
何だかお知らせで
予言で
愛しあいたくて
うまくいかなくて
そもそも届いてないかもしれなくて
君のことを考える


今日出かけなかった
君のこと考える
そして新聞がつかまれる
廃墟で


自由詩 出かけなかったんだ Copyright 石川和広 2005-11-16 18:26:18
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