小春日和
落合朱美

やわらかな陽射しに顔を照らされて
ふと立ちどまる

それはあの人の腕の中と同じ温もりで
ぽっかりと空いた胸の空洞に気づく


子供みたいに駄々をこねて
一夜だけでいいからと縋ったのは
女としていちばん艶やかな時を
見てほしかったから

あの夜の記憶だけで
生きてゆけると思っていた
あれから誰も愛せずに
それを淋しいなどとは思いもせずに


目の前の景色が滲んだから
思わず両手で頬を挟んで下を向く

街路樹の根元に
名も知らぬ花が一輪
陽射しに向かって精一杯顔を上げて
私を見てと乞う姿がいじらしい

やがて雪が降ればこの花も枯れ果てる
けれど今日の小春日に享けた恵みを
花はきっと忘れない


私は何故花のように 
満ち足りることができないのだろう

潔く散ることも遅咲きに綻ぶことも
できないまま
ただ不甲斐ない女のまま
花を羨やむ





自由詩 小春日和 Copyright 落合朱美 2005-11-13 16:43:14
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