快感原則
佐々宝砂


 それぞれを組むと九つの詩ができます

1.ところ
 A.霧にけむるノスタルジイの森林
 B.磁器の王国
 C.ひとけのない商店街
 D.海のうえを走り抜けるフリーウェイ
 E.動物園
 F.博物館
 G.ギラギラした星のあふれる夜空
 H.水晶製のアポロンのトルソーが林立する庭園
 I.ココア色した図書館

2.とき
 A.夏休みの初日、午前四時
 B.そこに時はない
 C.十月最後の日曜の早朝
 D.五月はじめの土曜、午後一時
 E.九月二十二日、午後三時
 F.冬至、深夜(時刻は不明)
 G.幼年時代の追憶の彼方のある夜、夜八時
 H.人類が滅びてから二十万年後(時制が異なるため時刻は不明)
 I.長すぎる秋の夜、午後十一時

3.天候
 A.きつね雨、もしくはフッカケ
 B.そこの天候は情緒によって左右される
 C.晴、ただし鰯雲が見受けられる
 D.晴、ただし綿雲が見受けられる
 E.快晴、明るすぎる陽射しは陰気
 F.曇天、建築物のうえに重く垂れる舌
 G.もちろん雲ひとつあるわけがない
 H.快晴なれどその天体の大気は呼吸に不適
 I.台風、あるいは雷雨

4.登場人物
 A.ざしきぼっこと豆腐小僧
 B.象とスフィンクスと鳥と魚
 C.五人の名前をあげてください、その四人目の人物
 D.姉と弟、あるいは兄と妹
 E.子供をひとり連れた若い夫婦
 F.恋人たち
 G.三人の少女(歳は下から十二、十三、十四)
 H.人類ではない知性
 I.ひとりきり、私だけ

5.サウンド
 A.陰音階による女性三部合唱
 B.ガラスが割れる音、その後の静寂
 C.ドラゴン・クエストのテーマ
 D.雑音の混じる五十年代のロック・ン・ロール
 E.遠くから聞こえるオルゴール
 F.ハイヒールが床を蹴る音
 G.ビブラフォンが演奏するラベルのボレロ
 H.水晶製の木の葉が歌う硬質なワルツ
 I.窓を叩く風、雷、ならびにピアノ独奏の子守歌



(1997)


自由詩 快感原則 Copyright 佐々宝砂 2005-11-06 21:21:43
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