偏食 番外編
落合朱美


私の三匹の獏たちはすくすくと育って
立派な大人の獏になった
偏食も直って夢をバクバク食べるようになり
(三匹めの小さな獏はおバケの夢だけ苦手だったけど)
やがて彼らは巣立って行った

いきなり独りぼっちに戻った私は
ひとりの部屋に帰る気にはなれなくて
繁華街をぷらぷら歩いているうちに

また拾ってしまった

線の細い長い指先と夢見がちな瞳
芸術家タイプの男に私は弱い
おまけにキスがとっても巧かったので。


男は獏なんか問題にならないほどの偏食だった
脂身の少ない鶏肉と淡色の数種の野菜しか
受け付けないくせに味付けにはうるさい
しかも男は働かない

私は毎日身を粉にして働いて
疲れきって帰った後は
男が食べられる数少ない食材を駆使して
味良く見目良く料理を作る

男は私の留守中に我が物顔で部屋を占領し
あるときは私のパソコンを勝手に開けて
書き溜めていた詩を勝手に添削し
あろうことか某投稿サイトに投稿してしまった
激怒したもののその作品が
いままでにない高ポイントを得てしまったので
ぐうの音も出ない

疲れ果てた私はいつも
今日こそは追い出してやろうと思うのだけど
哀願するような瞳で見つめられては思い直し
上手なキスには抗えず敢えなく沈没する毎日

せめてもの報復に男のために作る鶏団子に
摩り下ろしたニンジンを混ぜてみる
明日はピーマンも入れてやろう
明後日は豚の挽肉も混ぜてやろう

偏食はいけない

そうよ
人間夢ばかり食べて生きてはいけないのだから





自由詩 偏食 番外編 Copyright 落合朱美 2005-11-03 10:05:06縦
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