追い風
窪ワタル

アスファルト ビル風 その怠惰な起伏
慣性の法則は働き者
流線型に磨り減ってゆく野心も
革靴の踵も その幾らかの理由を失ったまま
(前進 前進 前進)

追い風参考
公認記録に届かない僕らのために
インターネットと テレビがあって
ユニクロと 松屋と 100円ショップで
装丁された表紙には
『個性』 とか 『オンリー・ワン』
とか記されている 

ハローワークまでの足取りには
言い訳が染み付いていて汗になって垂れる
モラトリアムは電柱を数えながら
追い風に孕まれて
心拍数だけがピン球のように跳ねて
息切れして また跳ねる
(ストロボ! 実はコマ送り)    


自意識過剰なB級青年は
さっきから
何度もすれ違っているホームレスに
自分を重ねたりはしない

ようやくたどり着いた駅
ガード下 ダンボールハウスの傍ら
美味そうに煙草をふかすホームレス
左目の端で捕らえ 丸めて捨てて
携帯電話に目を移す

長い秋がまた
一つ目盛りを上げる



自由詩 追い風 Copyright 窪ワタル 2005-11-01 13:56:50
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