かなしい帝國
石川和広





にいちゃん
わたしな
どこへもいけへんねん
うばすてやまにすてられたみたいや
ほんよんでるだけやねん
夕暮れ
わたしは掃除しながら
聞いていて

そんな今 むかし




歩いていると
ひとつの土くれが落ちている
何気なく見ると
誰もいない通り
空を見上げると
ニヤニヤ笑う人がいる

そこが穴だ
そこが穴だ




まばたきしている間に
終わってしまった
わたしの夕暮れ



あたりまえのこと
箸の握り方
つまずいて
砂漠を歩いて
かけざんがわからなくなって
ひとつ
ふたつと
すき間ができている間
たくさんの紙切れがおちてきて
わたしはどこまでも
遅れる
その遅れのさなかに
世界があくびして
わたしはたまらなくなる



いのちということばの
氾濫
あるいは反乱
息継ぎが下手で
コップの水を飲み干して
ここまできました
そしていのちです
いのちは
顔で
それぞれひとりで
言葉で
つきつけてきて
それぞれこぼれて
流れていきます
泳ぐ魚のうろこといっしょに



今日は
しんどいなあ
と大阪弁をつぶやく
わたしは
人の間を落ちこぼれて
すりきれて
その傷口から
野バラが咲きました



爆弾をとる
落ちてくるのを
とる
いっぱいピースがあって
爆弾を本屋に置いた子供も
テロリストも
みんな
甘酸っぱくて
明日もとりに行きます



攻撃につぐ攻撃
恋につぐ恋
そして誰もいなくなった
お母さんとお父さんが
透明になってふえていく
それから泡いっぱいのビールを飲む
コップに汗がつたっている



あたたかい酒
ついでもらうとき
思い出す
うっかり空にかばんを忘れて
うっかり新しい命が植えられて
うるさいけど
まあいいや

10

お寺に毎日拝みに行く
スケベなことばかり願うけど
あまり
罰がこないで
大きな神社に
えらいひとが拝みに行くと
新聞が大騒ぎしているのを
横目で見て
ハトをけちらして
それでも
ちゃんと死んでいない人が多い
そこにも
兵隊さんがならんでいるし
美しいおんなの姿もみえる
別に霊能力者じゃない
たぶん
いきているから
みえている
誰か
手を貸して
たぶんなんとかしなくちゃ
いけないと思う
やさしく
時に
クールに




自由詩 かなしい帝國 Copyright 石川和広 2005-10-31 18:18:51
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