ほんとうのこと
チアーヌ

田舎から出てきたばかりで
胸膨らます新入生
4月からどこに住むのかな
不動産屋は待ってます
みんなが喜ぶ学生さん
重要事項説明書
ひらひらさせて待ってます
これでもわりと良心的なほうよ
物件に掘り出し物はありません
業界の常識
そこへやってきたかわいい子羊ちゃん
とってもカワイイわたしのタイプ
さらさらの髪の毛に切れ長のおめめ
お姉さんがんばっちゃうからね
「お金を節約したいので少しでも安い部屋がいいんです」
「そうですか、じゃあ少し郊外でもいいですか」
「大学には近くないと困ります」
「お風呂は共同でもいいですか」
「それはちょっと困ります」
「変形のお部屋で収納が無くてもいいですか」
「収納はないとちょっと・・・」
「じゃあ北向きの部屋ではどうかしら」
「日当たりが悪いのはちょっと」
「うーん」
それじゃこの予算でこの場所には借りられないよムリムリ
そう思ったとき子羊は目を輝かせ張り紙を指差した
「あ、あれ、あれがいいです」
大学から徒歩4分駅から徒歩5分バストイレつき高級賃貸マンション
大家さんにもよくよく頼まれているたぶんこの子なら入る
いける騙せるこっちには責任ない
ふと目線を感じて振り向くと主任がガッツポーズ
わたしは車の鍵を持ち立ち上がる
「それじゃあご案内しましょう」
カローラは明るい昼間の街中をすべるように走るよ
そしてすぐに着いちゃった
「わあ、すごく豪華な建物ですね」
築12年だけど鉄筋コンクリート八階建てタイル張りの建物はまだまだいけてる
買うわけじゃないし賃貸だから余計そう思うだろう
エレベーターに乗ると7階のボタンを押す
部屋に入る
「明るいですね!それに広い。キッチンがダイニングにできますね」
「そうですね、広いですね。それに南向きで前は公園ですから、眺めもいいですね」
営業トークしながらわたしの心は暗い
「もう決めます」
やっぱりそうか
本当ならすぐに事務所に電話して部屋を押さえるところだけどわたしは迷う
本当にいいのか
昔見た映画のシーンが目に浮かぶ
「シンドラーのリスト」
うーんあんな大げさなもんじゃないがしかし
わたしは意を決してかわいい子羊に向かい合う
「あの。お化けは好きですか?」
「は?」
「お化けは平気なほうですか?」
子羊は黙ったまま何か考えてる風
「あの、それは、もしかして、この部屋は」
「わたしの口からはこれ以上言えませんが」
あのねこの部屋はね去年の12月そうよたった3ヶ月前に首吊りがでたばかり
それにねそれは初めてじゃないのこの部屋に入った人はなぜか例外なく死ぬの
理由はわからないお祓いなんか何回もやったのよ
12月の首吊りの前はね6月に飛び降りが出たの
布団を干してて落ちて事故だって言われたわ
その前はね単身赴任のお父さんがここで心臓発作起こして
大体一年はもたないのよそれでもいいのかしら確かに家賃は安いわよ
ここはねここはねここはここはここは
お化けが出るかどうかは知らないけどここはねとても
子羊ちゃん覚えておいたほうがいいわ
不動産物件に掘り出し物というのは
ないの




自由詩 ほんとうのこと Copyright チアーヌ 2005-10-26 11:46:13
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