Linda
なを

わたしにゆるされることは手をかさねること
六月の墓地でしゃがみこんで草笛を吹くと
わたしの手はやわらかい土のように
生まれたてのなめらかな手を覆う



(ささやくのはありふれたうたのような)



六月生まれの娘は草むらのあいだの道をあるく
雨は掃射砲のように草をちぎり
娘ははずむ息で低い空を見上げて呼吸がつまる胸をだきしめる
緊密な空気をかたいパンのようにして喰いちぎる
雨もひかりも掃射砲のように
しろいふくらはぎの六月の娘をちぎる



六月の娘はひとり
ひとりであるく
ひとりで長距離バスに乗る
ひとりでパンを食べる
ひとりで生まれる



わたしにゆるされることは手をかさねること
かさねた手のしたで
なにもかもなにもかも、なにもかもが
何千回も、きっと百万回も
ひとりで



雨も掃射砲もまるでひかりで
ちぎられるからだもひかりで
痛みも病むことも降る雨のようにひかりで
ゆくことももどることもできない
六月の娘はひとりで生まれる



誕生日のお祝いにかたいパンを持っておいで
しろいふくらはぎをひらめかせるおまえの
わたしは遠くでその名前を呼ぶ



(ささやくのはありふれたうたのような)
(Cliche)
(その名前)



なにもかもなにもかもなにもかも
きっと何千回もくりかえされたことで
きっとなにもかもなにもかも
なにもかも、きっと百万回もいわれたこと




初出/藤坂萌子発行「Miel」3号


自由詩 Linda Copyright なを 2005-10-25 13:52:12
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