自然治癒
千月 話子


薄暗い軒先で
植えてもいないのに咲いている
高貴とは程遠い
紫の嫌な匂いを放つ花を
じっと 見ていた



「毒に彩られた花やね。」と教えてくれた
少女の丸くかがんだ背中から
羽根のような骨が浮かんだ

白い指先を
根元から引き抜かれた どくだみの
泥が汚す
 嫌いだよ、この花。

「お薬になるのよ。」と
薄く微笑んだ口元が赤味差し
気が付けば探していた
あの花を 彼女のために



青紫のあやめ咲く
池のほとりで写真を撮った
クリーム色のワンピース
羽織った朱色のカーディガンなど
気にしながら 気遣いながら
「ごめんね。」と 小さくしゃがんだ
彼女だけがきれいに写ったそれを
今も 持っている



家の鍵を鉢植えの下に隠すのは
もう やめよう
動かすたびに小さな虫の住処を奪った
彼らには太陽など必要ないのだ



薄暗い軒先に
どくだみが群生していた
目に焼きついた
暗い 暗い 紫
私はそれを 摘んだりしない
もう二度と 摘んだりしない
 役立たずの・・・



”お母さん、あの子どこに行ったんだろう。”

赤い花の蜜を吸いながら問う
私の恍惚を捨て去って
母が遠くを見つめていた



二人して 静かに時が過ぎるのを
午後の日差しを受けながら
じっと じっと 待っていた



 


自由詩 自然治癒 Copyright 千月 話子 2005-10-19 23:01:26
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