羽ばたくように
石川和広

素晴らしい世界だ
人々は通りすぎて行く
僕も
生の
通行人

夜の木陰
夕暮れの谷間
びる
びる
びる
回る空

天王寺公園
悲しいかな
カラオケ屋台は消されてしまった
おっちゃんが足を止めて
ストレッチしている
なぜか傘を持っている
今日は雨が降らなかったのに
ラブホの前を速やかに
掃いていくおばちゃん
この街にとてもよく似合う
時計台
KOBANと書かれた交番
闇が祝福している

それから明るい地下道に入る
まるで生まれたままのように
みんな泳いでいる
武装して
地下鉄に向かって
笑いながら
話ながら
数分で幾千もの星のように
顔が光って
上を向いて
切符かって
その中をいつも新聞紙をひいて
うつむいている
おっちゃんが
今日は珍しく
煙草をふかし
座っている
大きな発見
大収穫たばこ!

おばちゃんが
その新聞紙を売っているのだ
生態系

僕はニーチェの言葉を
思い出す

嫌いな者の前を通りすぎよ
ああしかし
毎日が散歩の僕は
この光景に
快楽をもちかけている通りすぎて戦慄
旋律

通りすぎよ
通りすぎよ
さみしい旅情
旅に近い
毎日が
脳とお腹を捻る

地下道を泳いだあと
地上に出ると
羽ばたくように手を差し出し
雨の加減をみたおっちゃんが
歩いている
そう
まだ雨は来ない


自由詩 羽ばたくように Copyright 石川和広 2005-10-17 22:40:07
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