アダルトビデオより連想される独り言
虹村 凌

エロビデオもエロ画像もエロ本も、
何も与えてくれやしない。
生きる道も生きる術も、ましてやセックスの術すら、
教えてくれないし、与えてくれない。
ただ得られるのは、射精する感覚と、それにともなう虚無感である。

セックスとは子孫を残す為の繁殖活動であり、
女性がその行為によって快感を得るのは、
子供を産む時の苦痛を忘れ、また子孫を残したいと思えるよう、
身体の仕組みとして出来ている。
一方、男性はと言えば、何故そうなのかは分からないけれど、
日頃の仕事の苦しさを忘れる為だろうか?
働かざる者、番うべからず。
セックスがただの快感を得る為の作業にまで墜ちたならば、
俺はただ、同じ布団で寝ているだけで良いと思う。

俺は子孫を残そうとは思わない。俺は病気持ち(性病じゃない)だし、
ロクな人間じゃない。ロクでも無い親父から、全うな息子が生まれるものか。
俺は俺自身を幸福に導けるかどうかも怪しい人間だ。
ましてや、俺が愛した人間を幸福に導けるかもわからない。
そんな人間が、生まれてきた子供を祝福し、幸福に導けるだろうか?
勿論、子供の…彼または彼女の人生であり、
彼または彼女が幸福かどうかは彼もしくは彼女が決める事ではある。
だがしかし、親として見れば、それを手伝う事が義務であり権利である。
それを出来るかどうかが、今の俺にはわからない。

俺は俺の望んだ死を死ねるのかどうか。
死ぬと言う結果の為に生まれ、それに向かって生きている。
死とは生の結果であり、目的である。
死が幸福であれば、幸福な人生だったと言えるだろう。
死が薄倖であれば、あまり幸福ではなかったと言えるのだろう。
良い死を迎える為に、人は努力し、恐怖を克服し、もしくは隠したり逃げたりして、
一生懸命に生きている。それが人生なのだと思っている。
過程や方法なんてどうでもいい、とも言えず、
かと言って結果を出さなくても良い訳でもない。一番難しい事だと思う。
楽が出来ない。生きていくのは楽じゃないってのも、そろそろわかってきた。
人生は軽くない。苦しい分、重さも増してゆくのだ。
だがしかし、生命は星よりも重い筈が無い。
いち地球人の生命を救う為に、一つの惑星を滅ぼして良いのか?
太陽系にはいないかも知れないが、必ず人類と似たような文明の惑星は存在し、
そして繁栄していると、俺は思っている。
俺が死ぬ前には、宇宙の果てに向けて送った電波の返事が届くであろう。
例えば、その返事を寄越した惑星を、
地球人ひとりの生命の為に、惑星ごと滅ぼして良いのか?と言えば、
良い筈が無い。それは地球人としてのエゴでしかない。
地球人ひとりの為に、何故に惑星が滅びなければならないのか?
問いつめたいね、俺は。

死ぬ(と言う結果)の為に生きている、とすれば、
死は人生の結果である。つまり、「死」こそ、その人間の全てなのである。
死を手に入れる事は、その人間全てを手に入れる事になる。
それにより、俺は最愛の人間より先に死ぬ事は許されず、
俺は最後の最後まで、その人間の全てを手に入れようと足掻くであろう。
至高の愛情表現としては、殺してしまう、と言う選択肢がある。
52階のレストランで飯を喰うより、スペシャルスイートルームでセックスするより、
何よりも甘美で、完璧な愛情である、と考える。
殺してしまえば、誰の手にも渡らず、殺した人間が死ぬまで、胸の中で生き続ける。
死、と言う結果(全て)を手に入れて、生きてゆけるのである。
十何年か前にあった事件の犯人の「愛してるから殺した」と言う考えに、俺は賛同する。
セックスは愛情表現でも何でもなく、動物としての本能であり、衝動でしかない。
生産的活動になりうる、ただの本能と衝動でしかない。
俺だってセックスしたいし、押し倒したくなる衝動はある。
それが動物である証だと思っている。

アダルトビデオより連想された、独り言。
頭が悪いので、そろそろ頭痛がしてきた。
寝る。おやすみなさい。
セックスはまだ遠い事のようだ。
…久しくしてないがな。
寝るよ。おやすみ。電気を消しておくれ。


散文(批評随筆小説等) アダルトビデオより連想される独り言 Copyright 虹村 凌 2005-10-13 03:52:21
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