半ライス大盛りでお願いします
虹村 凌

何かが変わりそうで
何かがわかりそうな夜に
お金の無い僕は空腹で死にそう
でも半ライスを買える余裕のお金しか無かった
半ライスとラーメンだけ
店員さんは怪訝な目でこちらを見て
店長さんは後ろを向いて肩を震わせている
僕は下を向いて黙っていた

ラーメンを食べ終わった後の一服は
何よりも美味しいと思う
煙と僕が暗い夜の帳の中へ歩き出す
地面を蹴る音が
街の喧噪の中でも鮮明に聞こえる
「半ライス大盛りでお願いします」
街中が僕を笑っている気がして
僕は耳を塞いで走り出した

何だかわかんない内に
暗闇で誰かに刺されたみたいだ
真っ暗で何も見えない
おまけに雨まで降ってきた
何にも見えない
なのに不思議と恐くない
あぁ食い逃げしてりゃ良かった
ラーメンとライス大盛り
それと餃子
トッピングも楽しめば良かった
「半ライス大盛りでお願いします」
それが最後の言葉になるのかな
もっと人と話をすればよかった

不思議と頭は鮮明で
雨が降る音が良く聞こえる
誰かの足音が遠ざかっていくけれど
きっとあれは僕を刺したヤツだろう
憎しみが湧かないのは
僕が天国への階段を上っている事を
少しずつ実感し始めたからだ

何かが変わりそうで
何かがわかりそうな夜に
僕は天国への階段を上っている
そうだ
こうしよう

天国のラーメン屋さんでも
「半ライス大盛りで」って言うんだ
きっと美味しいご飯が食べられる
練習しなきゃ
半ライス大盛りでお願いします
半ライス大盛りでお願いします
半ライス大盛りでお願いします…


(翌朝、僕の死に顔は満ちあふれている事でしょう。
それではみなさん、さようなら)


自由詩 半ライス大盛りでお願いします Copyright 虹村 凌 2005-10-08 17:40:20縦
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「うにいくら丼」