殺しがやってくる
虹村 凌

「おはよう!」
「やぁ、おはよう!」
すれ違う人の挨拶に元気良く答えるのは
殺し屋だって事を
誰も知らない

いつもニコニコと笑っていて いつも愛想良く手を挙げる 
ピカピカに光った銃を忍ばせ 懐でぎゅっと握り締める
黒いサングラスの奥の目で 静かに煙草の煙を見つめている

仕事を決めるのは俺の心
俺の正義に反すれば 俺は友人にだって銃口を向ける
悲しみに溢れた目で 俺は引き金を引いてしまう

ばん


撃つ(涙が出てくるのだよ)

俺は俺自身が正しいと信じている
だから友人にだって銃口を向ける
どれだけ友人を撃ってきたのか
今まで何人を撃ったのかは覚えていない
ただ今日も
自分の正義に反する者を
そのぴかぴかに光った銃で撃つんだ


ばん

ばん



誰にでも優しい人間で
素性を知らない人間からは信用されている
でも俺自身は
自分の優しさが中途半端である事を知っている
俺は俺でしかない(それ以上でもそれ以下でもない
自分が殺される前に殺すんだ
自分の正義を守るんだ

ばん
ばん

ばん

俺は寂しがり屋だ
いつも一人ぼっちで煙草を吸っている
心の奥にひとつだけ愛を
もちたくて
もてなくて
いつもいつも震えている
本当は誰よりも弱くて誰よりも寂しい
悲しいと言わないけれど
サングラスの奥の目はいつも悲しい目をしている

俺は自分の最期を知っている
自分の正義をみんなに押し付け過ぎて
俺は生きてゆけなくなってしまう
自分の正義に反した自分に
俺は銃口を突きつける

ばん



俺は世界で一番のさみしがりやで 世界で一番のよわむしなんだ


自由詩 殺しがやってくる Copyright 虹村 凌 2005-10-04 04:03:26
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