ポップで泥臭い人情劇 〈芝居〉『カラフト伯父さん』 2005/06/16
白糸雅樹

 ぼろっちぃ鉄工所にひとり帰ってきて、カップラーメンを食べようとしている青年。そこに中年男が「カラフト伯父さん、だよーん」とおどけながら入ってくる。また迷惑をかけに来たのかとばかりに邪険にする青年。東京で借金だらけになって逃げ込んできて、とりあえず金を貸してくれと頼む中年。「金なんかあるかいや」と突き放す青年。おかまいなしに、妊娠しているストリッパーの女を連れて、でかい荷物を持ち込む中年。ドタバタの挙句に、青年に金が入るまでぬけぬけと居座りを決めこんでしまう。

 ひたすらおどけ、時に青年に父親ぶって説教しようとする男と、ただ軽蔑し、迷惑がっているだけに見える青年。しかし、話が進むにつれ、もしかしてこれは、青年が何かで拗ねているのではないかと感じさせる部分がちらちらと見えてくる。そして如何にも嘘っぽくみえる男の説教ぶろうとする試みもまた、なんらかの呵責がなせる業として見えてくる。

 それが決定的になるのは、「震災の時にあんたはどこに居た?」と爆発する青年の叫びだ。ドラム缶をひっくり返して暴れまわる青年とそれにつづく、トラックの荷台を舞台に聖母子像(いや、この場合は父子だが。)のような二人に降り注いでくる、崇高な天井からの照明。「遅くなりましたが、カラフト伯父さんは、ただいま君のもとに帰って参りました」

 さて、ここで終われば感動的にメデタシメデタシなところだが、21世紀の現代っ子のリアリティを持った話としてはそうはいかない。またしてもギャグを交えつつ、軽快に物語は進む。

 かつて、純粋になつき尊敬していた大人がいつしか期待を裏切る時。そんな古典的なテーマ、そして震災をきっかけに多くの人が引越しを余儀なくされ消えゆく下町。コテコテのギャグで味付けされた、泥臭い人情劇。役者の演技力もあいまって、非常に楽しめた。

 吉祥寺シアターのこけら落とし公演の一環の上演で鑑賞。こんどの日曜にテレビで放送されるそうです。

【作・演出】鄭義信(チョン ウイシン)
【出演】岡田義徳,冨樫真,ベンガル
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★『カラフト伯父さん』BSで放送!
今年6月に吉祥寺シアター他で公演した『カラフト伯父さん』が
9/25(日)0:55〜NHK衛生第2放送で放映されます。
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                                 2005/09/20


散文(批評随筆小説等) ポップで泥臭い人情劇 〈芝居〉『カラフト伯父さん』 2005/06/16 Copyright 白糸雅樹 2005-09-20 23:47:17
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