月夜のピエロ
服部 剛

やがてテントを夢色に染める
オルゴールのは消えゆき
客席に響く拍手のうずにおじぎするピエロ
幕が下りるとくるりと背を向け
舞台袖を降りて入った
楽屋の鏡の前に座り
白塗りの化粧を落とす

ピエロの頬ににじむ汗にまじった
一粒の青い涙を誰も知らない

夜になるとテントに集う
日常に退屈を覚えた寂しい客達
七色の大きいボールの上を
リズミカルな足どりで歩いては
すべって転んでしりもちをつくピエロに
今夜も腹を抱えて大笑い

楽屋で化粧を落とす時
ピエロの耳はすでに
数十分前の客席にどよめいていた笑い声を
遠い夢のテントの中に聞いている

ひざの破れかけたジーンズと
ほころびたTシャツに着替えて
ふらりと立ち寄った月夜の公園
寄り添うように立つ明かりの下
ひとりベンチに腰掛けるピエロ 

数時間前客席に肩を並べていた
無数の笑顔の面影を
月の光の降りそそぐ両手のうつわに浮かべている

やがて誰の手にも触れ得ぬピエロの胸の空洞に
秋の静かな風は吹き抜ける

寂しさに震える両手につかみ得ぬ
幸せを 何処かに 運んでゆくように
月夜の風は吹き抜ける 













自由詩 月夜のピエロ Copyright 服部 剛 2005-09-10 21:40:55縦
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