少しだけ詩を書いた夜
虹村 凌

高校生だった僕は
泣いて
泣いて
チンピラに憧れて
チンピラになりたくて
夜の街を歩いていたのです

高校生だった僕は
お金も無くて
遠くに行けずに
ただ地元の真っ暗な商店街を
あても無く歩いていたのです

100円ライターとタバコと
虎の子の120円を持って外に出ると
夜の風は知らん顔をして吹きぬけて行くのです
それでも僕は
チンピラに憧れて
泣いて
泣いて
夜の暗い商店街を歩いていたのです


毎朝使う駅は既に眠っていて
その前に頭を抱えてしゃがみこむ制服の男子学生が一人
酔いどれ天使のギター弾きが二人いて
僕は少し離れて座り込んだ
甘いコーヒーが好きだった

酔いどれ天使が歌う
ブルージーな「愛を取り戻せ」に
チンピラになりたかった僕は涙を流した
学生はずっと頭を抱えている
僕と同じ中間考査で悩んでいるのだろうか
隣に座ればわかりあえたかもしれない
でも僕は動けなかった
彼がいなくなればいいと思った

目の前を
千鳥足ですらない裸足の女神が引きずられて歩いてゆく
僕はチンピラになれない事を知っていて
少しだけ神様にお願いをする

どうか僕を不幸にしてください

チンピラになりたくなくなった僕は
家に帰って
少しだけ詩を書いて眠った
チンピラになんてなりたくない
不幸になんてなりたくない



家のベッドはやわらかくて暖かかった
120円の缶コーヒーを幸せにしていた夜は
もうすぐ開けてしまう


自由詩 少しだけ詩を書いた夜 Copyright 虹村 凌 2005-09-08 14:16:05
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