それでも 生きているのだ
窪ワタル

 心臓を 下さい
 何処かに置き忘れたのです
シナプスを飛ばして 過去の駅
遺失物預かりの四角い顔は
どうして揺れることがないのでしょう
同情して下さい なんて 
云えないのだけれど

 からっぼの胸骨には
 脳味噌がすっぽり収まるので
 代用には十分ですよ
と 云うのですよ 医者のヤツ
 試しに頭蓋骨を砕いてみましょうか
ですって
 ただし暫く真っ直ぐ歩けませんよ
ですって
ただでさえナケナシのプライドが
揺らぐじゃないのさ

血が流れていないのか
今朝からひどく寒いのです
まだ秋だというのに
街は冷蔵庫の底のようで
制服を着たカップルが
キス なんかしてる
マッチよりは温かそう

唇をなでると
手触りは骨に似ていて
輪郭だけが残っているのでした


自由詩 それでも 生きているのだ Copyright 窪ワタル 2005-09-08 09:53:10縦
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