エロとロマンと、いつかワルツを
千月 話子

至近距離で選ぶ 想像の快楽とロマンチシズム
目線のやり場を 一体どこに持って行けばいいのかと
目視の限界点で 目をしばたたかせる男と女
何をそんなに見つめていたのかは、人それぞれである
まったく無関係な二人の話を


男は匂い立つ花屋の前で 鮮やかな赤い薔薇を見ていた

銀色の花受けに広がるビロードの花びら
棘はそのままの姿で 鋭く
素で束ねた五十本の薔薇を抱えるワタシの腕に
痛いほどオマエを感じる ああ、、エリカよ

ほの暗い街灯に照らされた淫靡なゲイバーの扉を開ける

オマエの踊る細い腰を引き寄せて
作り物の美しい胸の花瓶に
薔薇を一輪と水の溜まりを散らさぬように
そっと 滑らかに挿し入れる

「これが、アナタの愛ですか?」と女のような高い声で問う エリカ
「これがワタシの愛だよ。」と耳元で低く答える 男

いつか その体総てに真紅の薔薇を挿し終えた時
二人でタンゴを踊ろう 抱き締めた血まみれのタンゴを・・・

 窓枠に止まる白い蛾が こちらを見ていた
 まるで 美しいゴシック・ロリータのドレスを纏って
 生まれ変わったのか 愛しいマリアよ。
 白薔薇は もうこの腕の中には無いと言うのに

  ***************

女は香り立つカフェのショーケースに美しく盛られた
色とりどりの西洋菓子を見ていた

銀色のトレーに可憐に座る サテンのドレス
髪飾りは 南国から船に乗って
重なるレースの割合が 品良く並び
切り分けられた 乙女の足首に
しっとりと纏わり付く ああ、、苺のミルフィールよ

蔦の絡まる鉄柵の門を開けて 広がる英国庭園の東屋

白いテーブルの上で その美しいドレスを
一枚一枚脱がせるように 頂こうか
赤い髪飾りが 足元の絵皿で転がっている

若い給仕のステファンが 艶々とした指先で入れる紅茶の名前
その 美しい姿を称えて
「真夜中の黒猫を入れて下さる?」と爪先を堅くして促すワタクシ
「ブランデーを一滴、いかがですか?」とガラスのような瞳で伺うカレ

甘い蜜の液体を飲み終えた時 二人で遠くへ逃げましょう
ミュージカルを演じるように 大袈裟に・・・

 窓越しから ひっそりと執事が見ていた
 黒髪の優しい紳士 見守っていて
 もう愛せないのよ 悲しいアーサー
 アナタの入れる虹色コーヒーの
 赤い部分が 最近少し辛かったのよ


 
妄想・真実・憧れを その目に抱えて
少しの薔薇とケーキをワンカット決断した男と女のお話

夢のような巨大スーパーマーケットの高い天井 広がる景色
フラフラと立ちくらみして歩く二人の 出会いは踊り場
 エリカの手を取れ!ステファンの指を絡めて!

やがて 混乱に踊る危なげなワルツ
目線を感じて 終わる終幕
あの人では無かったと頬染めた 人ごみの中

そして二人は、恋に 落ちたりしなかった・・・

本当の出会いまで 何度でも踊る危なげな足先のワルツを
  


自由詩 エロとロマンと、いつかワルツを Copyright 千月 話子 2005-09-07 00:23:57
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