僕の世界は海になって
石川和広

ミッドナイトプレスを
買った帰り道

天王寺駅構内を歩いていると
笑っている人も
うずくまる人も
奇声をはっしている人も
中学生も
しゃべっているおばちゃんも
みんな真剣だなあと思った

ぼくがふざけているのだろうか

ひとりひとりの頭の中に
語りかけたい声や
買い物どうしよう
とりとめのない声があって
うずまいていて
誰かと歩いていて
ひとりで歩いていて

その中に奇声をはっしている人もいて
僕は昔の仕事が知的障害者施設だったから
なれているのかな
いやちがう

通りすぎていく人の中で
奇声は何かを
懸命によんでいるようだった
それが聞こえて
特別視もしなくて
かといって
目の端から切らないで
忙しい人たちの中で
僕はその他大勢で
僕みたいに見ている人もいるかもしれない
と思いながらも

奇声をはっしている人の目線の先は
たくさんの
百貨店の入り口を行き交う人で

それでもその人は
どこか僕がしらないものに
体をななめにして
はなしかけていて
それはなぜか
とても大切な
そして繰り返される
もので

そう感じた僕は差別者だろうか
どこまでもそうだとしても

こうして歩いていて
僕は
障害者になりたてで
まだ過渡的で
人生について
ふつうに考えるには
段差があって
かといって入院した人にも
仲間に入れなくて
(一回入院をすすめられた)
ポケットには緑色の障害者手帳が
入っていて

そのことを詩にしようと
思って書いていたのだけれど
操作ミスで一回消えてしまって
思い出しながら
つづけていて
思い出しながら
変わっていくから
思い出すって怖くて

僕の視線は
世界が成り立つ
その手前から
光景が成り立つ
直前を
さまざまな声の生成を
見ているのか
さまざまな声や
アイスコーヒーが
アイスコーヒー
であることを
確かめる前に
飲んではいるが
飲んではいる僕の
手は
手であることを体は忘れていなくて
僕は
当たり前のことを
その成り立ちの前から
見ていて
家に
帰ってきて
たくさんの本を
お金とかえっこした
お金は
実は苦手で
算数も
苦手で

帰ったら空が
色なのかと思って

夜は寄るから
全てがうまれて
しんでいて

あなたも
帰り道への階段を
上って
息遣い
息遣いは何色
といって

僕の世界は
海になって

それでも風は吹いていて
なにか
少し
すっきりした

お腹が少し空いた


自由詩 僕の世界は海になって Copyright 石川和広 2005-09-05 18:28:20
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