回 帰
田代深子




錆こする
     蝉 が赤土の
踊り場を囲い 哉
 哉哉哉哉 といにしえの

唱をまねび叫ぶ
     哉 哉哉哉 哉
橡の木の下で錆び
       た旋盤機が
抱え込む影塊は夕立の日に
  家を失せた
 叔母 おさなくして
         「ああ
やっぱり
   そこにいたの」誰も
確かめにいかない で
  ごめんね 母は小声で
そこに  いたのわかった
それで
充分    丈高い
        夏草の叢
にかがみこんだまま
まだだ よまだ
     動いちゃ 錆が
  新しいシャツをよごす
じゃない   哉 哉哉哉
哉 ご馳走は
       とってある
橡が
かしぎ旋盤機を覆う
         百年も
  眠れるよう

あわてないでまだ
        まだだよ
蝉が鳴きやむまで哉哉哉哉
日が
暮れきって叔母と
      橡と旋盤機が
   入り口の穴になって
空いて
    おかえり
おかえり
 さあ
         お食べ
   なさい今日はご馳走
錆で真っ赤な
手を洗って
       いえこれは
    百合の
  花粉
 哉
哉哉哉哉
     赤土に落ちた蝉
を囲み     旋盤機が
またかしぐ







2005.9.3


自由詩 回 帰 Copyright 田代深子 2005-09-03 14:46:37縦
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