夕焼けが足りない 10
AB(なかほど)

  夕焼けが足りない 一○
 


 これで最後ですよ

と通達された

 あなたのための夕陽はもう残っていません


どうやら
流行りの成分のひとつで
許容摂取量も決められていたのに
僕はあまりにも依存症で
無駄に取り過ぎたために
取りあげられてしまったらしい


近頃の僕はすっかりあの頃のKさんで
お腹が出てきたことや
髪の毛が細くなったり
脂ぎってきたりしていることはまだいいとして
営業用の愛想笑いと
反りの会わない部下に冷めた視線を送ったりしているのを
ふと我にかえって見てしまうと
吐き気をもよおしてくる
喫煙コーナーで僕の口から漏れ出す愚痴や説教なんて
糖尿病の研究をしているのに肥えているお医者様にしか
意味が見つからない
よくある 
よくあることで

仕事を終えると陽は暮れている



ああ お天道様お天道様
煙草はもう吸いません



最後の夕暮れをどうしようかと
日曜の昼下がりの土手に
風が吹いた

会いたいときはいつでも会えるしって言った彼女の番号を X
会えないときでもつながってるんよって言った彼女の番号も X
うちひとりだけは見といたげるしって言った彼女の番号を X
これからもずっと一緒やねんって言った彼女の番号も X

風 吹いた
僕は目を開けたまま
夢 見ていたら
風 吹いた

会いたいときはいつでも会えるしって言った彼女の背中に X
会えないときでもつながってるんよって言った彼女の胸にも X
うちひとりだけでも見といたげるしって言った彼女の腿に X
これからもずっと一緒やねんって言った彼女の耳にも X


 X
  X

もう
染まることもないんだろう か
立ち上がると
風 吹いた



ああ お天道様お天道様
僕にはどうにも足りないのです







自由詩 夕焼けが足りない 10 Copyright AB(なかほど) 2003-12-27 09:10:03縦
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夕焼けが足りない