小箱
千波 一也



おかえりなさい、が あったのだよ

ひらけば其処に
おかえりなさい、が あったのだよ


そとから帰って
よごれた手も洗わずに

とってもとっても
温かかったのだよ



このごろは少し、
ふたがキシキシと音を立てていたね

器用ではなくとも
少しくらい 触れておけば良かった



夜のボタン、のかけらが この手にひとつ
あるような気がするよ

夜風に震える指先なんかでは
とてもじゃないけれど上手くは掛けられないよ

宙に伸ばしたこの腕は
帰る先を一つ、うしなってしまった
だろうか ね



おかえりなさい、が あったのだよ

ひらけば其処に
おかえりなさい、が あったのだよ


途切れ途切れ、のオルゴールのね
音符があまりに自由なのだ よ

聞こえるだろうか、ね
聞いてほしいんだ、よ



おかえりなさい、は あるのだよ

もらったそのままのかたちで
此処に
おかえりなさい、は あるのだよ


これは 眠りでしょう きっと

つかのまの
わるい夢なのでしょう きっと


だってこんなに温かいのだもの

木のぬくもりが


木のぬくもりが



離れないのだもの







自由詩 小箱 Copyright 千波 一也 2005-09-01 05:38:06
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