故郷といる
窪ワタル

故郷といる
私は故郷といるのだ
何処へも行かない故郷は
やはり田んぼの匂いがして
葬式と悪い噂話が好き
山は刻々と死に 生まれる
夕方には日暮が鳴いて
21時を過ぎたら車は一台も通らない

呆けはじめた祖母と
夕食に鰻丼を食う
通夜から遅く帰った父と
ビールを呑んでテレビ
母の携帯電話はまだそのままのテーブルに置かれ
何の比喩も持たず ただ有る

父の愚痴を黙って聴く
耳は聴くための器官なのだ
唇は乾いたまま
父は質問はしないので
祖母への愚痴は涼しい

言葉は唇で流産し続け
私は罪になったまま
耳ばかり忙しいので
左右二つでは足りないで
時々瞬きなどして
故郷をかみ殺そうとするが
故郷は微動だにしない

テレビでは 
方耳に補聴器を付けた
背番号30が
三振をとって
マウンドを均している




自由詩 故郷といる Copyright 窪ワタル 2005-09-01 02:10:25
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