雪景色
不老産兄弟

講演会場まで徒歩7分
地下鉄の駅は改札からが長い
あの日は確か渋谷で待ち合わせた
雪が降ってた

転ばないように手すりにつかまって
慎重に階段を下りていく人々は
肩に力が入りすぎている
講演者の著書を後ろにずらりとならべても
引きつった笑顔では聴衆の心は温まらない
こんな雪の日は

少しコニャックが入っていたせいか
俺たちは何度も不適切な質問をした
本気でぬくもりが欲しかった
ラーメン屋の角を曲がった時からずっと

三時ごろ途中退室をする人が相次ぐ
多くは二十代前半と見られた
まさかと思い一階の喫煙所に行ってみると
忍耐の薄弱な社会の敗北者達が
クラゲのように絡み合う姿は
フェリーニかと思った

とにかく罵倒してやったら
半数はその場を立ち去った
残りの連中はしぶとく
雪球を投げてきた

昼飯にカレーを食べたと思われる男の
白いニットの黄色いしみが気になった
男は泣いているように見えたので
あわてて警備員を呼びに行ったころ
通りの向こうにはぽつりぽつりと明かりが灯り始めていた


自由詩 雪景色 Copyright 不老産兄弟 2005-08-27 14:00:16
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