ブリキのひびき
石川和広

消えたカラダを
拾い集めに
旅にでる


ゴミあさりして
錆びた鉄板を胴とすると
腹からピューピュースキマ風

コンクリートの下から
生えている草を指にすると
たよりなくふにゃりとする

足は泥で固めてつくった
少しずつ早く歩けるように
なった
ときどき水をかけてやらねば
干からびてポロポロ
はがれる

私はふるえないトルソー

写真ではわからない
ブリキのにんげん
錆びてまがった
ホムンクルス

私は
本当の笑いを
なくした
いつからか
腹から笑えなくなった
腹がないからだ

その場しのぎの微笑みは
うすぐらい通りに
消えてゆくだけ

知らず知らずに涙が伝う

その場しのぎの微笑みは
うすぐらい通りに
消えてゆくだけ

雨が降るトントカテン

感情がうずまくんだけど
ふつうに悩んだり
泣いたり
うらやましい
鉄板の下に
隠したささやかな声は
忘れてしまった

避けているだけかも
しれない
という過程も家庭も
覚えていない

晴れているトンテカテン

私は愛を受けて育った

私は肝心のことばを
様々ななかまはずれの中で
失ってしまった

なかまはずれにされる前から
死んだひとのかたちの前に
たちすくんだ

外界を遮断し
ただ無限のたましいの壺におち
謎がなぞと感じられなくなり
生きている実感を
失い
白い紙に燃えることばをかき

ことば
消えて
消えて
また書いて

ブリキの胴をもったのだ

なぜか
最近腹がぷよぷよするんだけどね


自由詩 ブリキのひびき Copyright 石川和広 2005-08-22 14:42:13
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