深海魚のふるさと
石川和広

夕暮れに!
夕暮れに!
またやってくる
憂鬱が
ひとりでに
しらずに
ぼやーんと

空は黄色い
セミがないている

深い海の底から
僕はひとり
彼女は出かけた
見えないもので
つながっているのに
僕はひとり

ぼやーんとしている
メールをうっている
詩集が
届いたらしいので
うれしいのに
その気持ちと
矛盾せず
それでもひとりに
戦慄

何が起きているのか
ああ憂鬱

底から考える
僕たちは
深いところで
やわらかく
つながっている
なぜ
一人を感じるのか

ブックオフに行ってきた
昼の深海魚が
書架の回りを
とまっては
目を光らせる

僕の肌ウロコになる

ざわめく
落ちていく
ひとりであることに
目覚めると
さみしさが水面を
おおう

黙りながら
ここにいて
乞うている
身をふるわせる

いつも
大切にされている
のに
こんな時は
遺棄されている

感じてしまうのだ

その感覚
僕の故郷だ
僕は僕自身に
帰っていく
形のない水の動きに
溺れかけるのだ

彼女が帰ってきたら
ふるさとの声を
ひきずって
おかえりなさいを
いうだろうか

僕は単純に
おかえりなさいを
いうのだ

半身が
帰ってきたように
ひとりはさざ波に
なり
二人はまた
寄せてはかえす
波に泳ぐ魚になり
詩集が届いたこと
喜ぶだろう


自由詩 深海魚のふるさと Copyright 石川和広 2005-08-16 18:24:43
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