その手に
落合朱美


ベッドの上に横たわり
胸の上で組まれた手が
呼吸に合わせて上下する
その規則的な動きを凝視し
眼を逸らすことが出来ない

肉厚のごろんとした手は
ずいぶん年老いてしまった
額の皺も白髪も
長い年月を生きた証

いつの頃か遠い昔に
その手に抱かれた記憶があった
その頬に擦り寄って
屈託無く笑った記憶があった
曖昧でおぼろげな記憶だけど

いつしかお互いにかける言葉も無く
視線を合わすことも無く
ぎこちなく気不味い関係に
なってしまったね
爪の形までそっくりなこの手は
間違いなく貴方の娘だと
物語っているのにね

その手に
そっと触れてみる
だけど不器用な貴方が
目覚めた時に困惑するように
不器用な私も
目覚めた時に慌ててしまうから

音を立てぬように
そっと病室を出て行く私を
貴方は親不孝な娘だと
思っているのだろうか




自由詩 その手に Copyright 落合朱美 2005-08-12 09:32:22
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