いつの日か船越英二が  自転車三昧の日々
山田せばすちゃん

最近妻のご機嫌がよろしくない
夜毎夫がパソコンで
やれDAHONのシートポストの軽量化だの
スギムラRCB-1の後輪のインチアップ計画だのと
自転車三昧なのを横目に見ながら
「今年のお盆は子供たちを
 どこにも連れて行ってあげられないのよねー、可哀想に」
などと
末娘のななちゃん(生後五ヶ月)のオムツを取り替えながら
聞こえよがしにひとりごちてみせたりなんかして
大体ななちゃんがいるからお父さん、今年は遠出は無理ですよね、と
言ったのは君のほうではなかったか(苦笑)
「お父さんはななちゃんより自転車が好きみたいでしゅよー」
などと
いったいインターネットで愛娘について
なにを検索しろというのだ(苦笑)
そりゃ父親に似たのか五ヶ月にしては図体が大きくて
母子手帳の成長曲線では五ヶ月としてはぎりぎりの身長体重の
ななちゃんではあったりするのだが
まさかななちゃんのこれ以上のインチアップとか
はたまた洒落にならない軽量化とか
ましてや
ななちゃんのボトムブラケットの交換などという事態が
あるわけでもあるまいし

しかしながらこの状況下で
自宅の納屋兼俺の作業部屋に
隠匿という言葉も気恥ずかしいほどに堂々と
鎮座ましましている
ヤフオクでへそくりの5万円はたいて手に入れた
リカンベントタイプ自転車の梨花ちゃん(仮称)なんぞを
何かの拍子に妻に見つけられては
何をまた言われるやらわかったものではないので
妻の外出を見計らって仕事中にも拘らず
自宅に戻り
納屋兼作業部屋にてせっかく組み立て途上であった梨花ちゃん(仮称)を
もう一度解体して隠匿の名にふさわしく
あちこちに分散させて片付けてしまうことにする

真夏日の昼下がり
空調なぞを望むべくもない納屋兼作業部屋にて
静かに横たわる梨花ちゃん(仮称)を黙々と解体する俺は
Tシャツが絞れるほどにぐっしょりと汗をかいて
時々汗をぬぐうその額は
掌にべったりとまとわりついた梨花ちゃん(仮称)の
チェーンオイルで
ところどころ黒光りしているに違いなく
アーレンキーの番手を間違えてあやうく
ねじ山をなめそうになったりしながらも
シートをはずし
タイヤをはずし
ペダルをはずして
さながらそのときの俺の姿は

妻に内緒の愛人を殺害して
死体をバラして隠匿する火曜サスペンス劇場の
犯人のごとく

ごめんねごめんねとつぶやきながら
やってることは愛人にも妻にも裏切りでしかないのは
明白なのだけれど

謝りながらやろうとも
泣きながらやろうとも
罪は決して軽くなるべくもないのだけれど

それでも善良なるがゆえに
犯した罪を糊塗すべく
更なる罪を重ねるのであろうなあ、などと
そんなことふと
思ったりなんかしながら

いつの日か船越英二が
はたまた山村紅葉が
夕暮迫る俺の納屋兼作業部屋に
「犯行はここで行われたんですね」などと
今更ながらの謎解きをするエンディングなんかを
ちょっと夢見たりする

蝉の声は今日もかしましい


散文(批評随筆小説等) いつの日か船越英二が  自転車三昧の日々 Copyright 山田せばすちゃん 2005-08-12 01:07:35
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