音 Ⅲ
木立 悟




偽らない星
とても近くに
まばゆく在る星
光はとどまらない
音は退かない


いくつかの小さな泉を残し
雨の天使の足あとは消える
水と葉は静かに向かい合い
舟は音だけを乗せ海へ下る
灰色の花に満ちた川をゆく


雨の地を飛ぶ
帰れない蝶
どこにもいない雨から
どこにでもいる雨へと
手わたされる音


街はずれの原に
雲が落ちてゆく
ゆっくりと灰色の波がひろがってゆく
屋根が水にかがやいている
午後の光を背に
風も 音も
草のはざまに現われる


谷から谷へ
見えないものどうしが互いを呼びあう
虹が落ち続ける水を昇り
新たな高みの輪になってゆく


ある日 ふいに地を失った
雨の天使の目から 額から
光がこぼれ落ちてゆく
音のない天気雨
その一粒一粒が
空のように降りそそぐ
空のように降りそそぐ








自由詩 音 Ⅲ Copyright 木立 悟 2005-08-11 17:28:35
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