君と九月と、あの空と
嘉野千尋



  夏の最後の日差しが眩しくて
  何も言えずに目を閉じた
  晴れた空に向かって
  君は背伸びをして手を伸ばす
  それでも僕は何も言えない



  ひと夏が終わるたび
  僕らは海辺の丘から
  帰ることのない夏の日々を見送り
  置き去りにされた濃い影が
  焼けたアスファルトの上を
  じりじりと進んでいく様子を見ていた



  夏雲がやがて嵐を連れてくることを
  水面がさざめいて静かに季節が移ろうことを
  呼吸するように僕らは知っていた
  あの夏、見上げた空はどこまでもただ青かった



  君は空を睨んだまま
  遠くへ、とひとことだけささやく
  どこへとは訊けなかった
  さよならの代わりに背を向けた
  あの夏の終わりの、幼い恋
  


  戻らない夏が重なって
  いつか秋空に流れていくように
  僕らの小さな願いも流れればいい
  


  夕立が視界を一瞬灰色に染めて
  夏の最後は金色に染まった
  君を見送った夏の午後
  あの空はまだ晴れていた





自由詩 君と九月と、あの空と Copyright 嘉野千尋 2005-08-05 20:27:32
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