空の子
ヤギ

サワレナイという女の子がいました
何を贈られてもそれに触れないでかなしそうに笑うので
そう呼ばれていたのです
サワレナイはある朝、さみしい夢に目を覚ましました
そして、毎朝そうやって起きていたと気がつきました
いつ頃からだったのでしょう
見る夢がさみしくても生きていけますが
まるで冷めたスープを飲んでいるような、つまらない気持ちでした
そんなとき、街外れに良い医者がいると聞き、診てもらいました
医者は両目をのぞき、心臓の音を聴いて言いました

「これはいけない
君はね、人を信じることができないんだ
それも決定的にね
このままでは一生さみしい夢を見続けるよ
治すのはとても難しい
でももし本気で治したいのなら、好きなものを集めなさい
一生懸命集めなさい」

特にこれといって好きなものはなかったのですが
いつでも空は好きでした
それで空の写真を撮ってアルバムを作ることにしたのです

風の強い日の空
二層の雲に夕焼けが染みていく空
子どもの頃と同じに熱い空
仄白い二日月が見守ってくれている空
ありきたりの曇り空
ひたすら青い空

たくさん写真を撮って
何冊もアルバムができました
部屋中に空の写真を貼りました
けれどさみしい夢はやみません

「もしかしたら、ずっとこのままなのかもしれない」

そう思いながらカメラを置いて
ぼうっと街を歩きました
人々は黙々とすれ違います
だれも空を見ていません
夕方になりました
沈もうとする太陽が
並び立つビルを照らしています
夕陽は窓ガラスに反射しています

「とてもきれいだ

…あのビルの光と同じように、人や、そして私を照らす光も、ほんの少しだけど空の向こうへ返っていく

光は同じ」

そのままふと考えました

「もしも、何にも疑わなくていいとしたらどうだろう
伸ばした手はだれも傷つけなくて
人がかけてくれる言葉は優しさからで
目と耳を塞いで口を閉じていても、心の中でだれかと幸せを願い合える
それはなんて温かい世界だろう
夢のようだ
まっすぐに生きられると、どうして思えていたんだろう
疑わない
ただそれだけが難しい
ああ、そうか
なぜあんな夢ばかり見るのかようやく分かった
そしてその苦しさ、また温かい夢を見ることの難しさが本当に分かった」

その後、さみしい夢がやんだのかは分かりません
しかし写真は一枚ずつ増えていきました
本棚いっぱいのアルバムには

空と

空と

空と

空と

人と

人と

人と

人と

そればかり














自由詩 空の子 Copyright ヤギ 2005-07-25 17:21:15
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