羽のはえた籠
木立 悟

 


見わたすかぎり
群青の花が咲いている
鉄を打つ二つの人影
冷気が恐怖をはらい
からだを重くする
静かに笑み
花のなかに
降る水の暗がりに
はじめて地を踏むように立つひと
誰よりも強いひと
誰よりも悲しいひと


目を閉じるしかない光の迷路で
冬の道のまんなかで
とどかないものを燃やした
火も 心も 狼煙も
何も信じられないまま
熱の行方をあおぎ見ていた


わかりあえるはずのもののなかでわかりあえずに
いつのまにかたどりついた原で
草のすべてに伏していた
夜の光の下で
抱きしめると同時に
抱きしめられながら
泣いていた


雲を映した川を見ながら
遠くまで暗い空から
見えない水が降りそそぐのを知る
窓に 地に
鏡の午後に
切り離された
同じふたつの像が
濡れながら微笑むのを見る


陽のささない場所に咲いた花が
雨のなか 独りのまま
寄り添うようなにおいを醒ます
物に触れることのできない手が
歌と群青色を
羽のある籠に摘みとってゆく
誰よりも強い手が
誰よりも悲しい手が







自由詩 羽のはえた籠 Copyright 木立 悟 2005-07-17 06:58:33
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