雷子の居た夏
千月 話子


空の不思議な明るさを眺めていた
午後のしん とした静けさに
誰もが固唾を呑んで、音が止まるふりをする


脂汗を拭って、開け放った窓に手を掛けた
そろそろ雷子がやって来る
彼女はいつも俯いて、暗い顔をして玄関先に立っている
電話もメールも出来ない 雷子
いつも突然やって来て
「ごめんなさい、ごめんなさい・・」と泣いてばかりいるので
ほら、激しい雨が降って来た
「悪くないよ。」と その体を抱き締めてあげたいけれど
しっとり湿った髪や背中に触れようと 手を伸ばしたら・・


ドカン!!と稲光が走って
家の近くの大木に雷が落ちて
ビクついて
手も 出せやしない
窓からこっそり外を覗くと
へし折れて白煙の立ち昇る木の陰から
ステテコ姿の雷子の親父が
10,000ボルトの目をギョロつかせ
こっちを見ていた こっちを・・・見て いた


君の父さんは、全ての男が嫌いみたいだね

元彼の竜男は 雷子と2人傘の中
突然の落雷の衝撃で 川に飛ばされ激流へ
流され 流され 2県先で救助された
元々彼の陽介は 雷子と2人自転車に乗り
突然の雷雨に驚いて 急ブレーキをかけた瞬間
飛び上がり 通り過ぎるトラックの荷台に乗って
北の国へと 配送された


だから そんなだから そんな話を聞いたものだから
「もう、僕たち・・潮時だね。」
と おそるおそる聞いてみた
さとうたまお のように潤んだ瞳が好きだった
でも、もうそんな目で見られても
後ろに2・3歩 引くだけさ 雷子


そして、僕は やまだたろう で
ただの普通の男では、君を守ることも出来やしないよ
例えば ねずみの嫁入り みたいにね。


「ありがとう・・」と言って 静かに去って行った君は
次の年、風太 という男と結婚したと噂で聞いた
でも、君は 夏になると浮気の虫が騒ぎ出すのか
雷と 雨と 親父が 走り回る
そんな風物詩を作り上げて 今はそれも少し懐かしい



さよなら 雷子 さようなら
そして、君の弟の 砂嵐くんに
録画中 ざりざり にされたビデオの
歌だけが 流れる
愛しいフランスの女

エマニエル夫人に 
さよなら・・・・

 


自由詩 雷子の居た夏 Copyright 千月 話子 2005-07-15 23:43:49
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